コボレルカジツ

実は数カ月前まだ僕が26歳の頃、会社の通勤途中でうんこを漏らした。

その日はたしか暑い日で35度以上あったと思う。
あまりに暑かったのでTシャツ一枚で会社に行った。僕の家は小田急線の終点にある駅なので、いつも朝は新宿直通の各駅停車で1時間ちょっと電車に揺られる。
いつものようにヘッドホンでCDを聞きながら、座って眠って電車にのっていた。車内は結構クーラーが効いていて、少し汗ばんでいたため汗が冷えて最悪だった。
何となく上手く寝つけないまま新宿駅をでると凄い暑さ。
新宿についた時には、体が冷え何となく気分が悪かった。実はこの時にもう既に予兆はあった。悪い予感が。改札でなぜか財布から定期を取り出すのに手こずってしまった。
「何でだ、なんかちょっと変だな」と思ったのを記憶している。

新宿南口から新宿御苑の方に歩き始めてみると異常な暑さに腹がおかしくなった。気温差がおそらく10℃以上あったのではないかと思う。いきなり便意がやってきた。
最初はたいした事無いと思ったので、歩きながら少し屁を出したりして余裕ぶっていた。しかし、これがいけなかった。温度差が異常にあったためか僕の腹はもう既に瀕死の状態だったのだ。
BGMはレディオヘッドでトムヨークがメランコリーな曲を唄っていた。もう少し大丈夫だろうと思って屁を出した瞬間。少しだけ肛門からこぼれ落ちてしまった。

「やばい!」と思ったのもつかの間、なぜか肛門に力が入らずさらにこぼれ落ちる。相変わらず耳もとではトムヨークの声と、穏やかな音楽が流れる。「この音のせいで力が入らないんだ!」と思い、耳からヘッドホンをむしり取る。
なんとかトイレに辿り着こうと脳みその中はフル回転。会社付近の駅ビルのB1のトイレにかけつける。
しかし、無情にもトイレは既に満席状態。気が緩みかけていたために、ここでもこぼれ落ちる。
なんとかその下の階のトイレに飛び込んだものの、時すでに遅し。ズボンを脱いだ時にはさんたんたる有り様。しかし人間追い込まれると強い。もう手にモノがつこうが何しようが、懸命にティッシュでズボンを拭き下半身を拭き便座を拭き。異常な脂汗を描きながら、何とか見た目にはわからないように処理をはじめる。表では朝の掃除にやってきたおじさんが作業を始めようとしているのを感じつつ、下着を大量のトイレットペーパーで包みこのままでは探す事ができないととりあえず鞄にしまう。

幸いその日のズボンは黒かったため、パッと見は気付かれない。ビルをでて適当なゴミ箱に下着を素早く捨て、とりあえずこのままでは会社にいけないと思い電話を入れ、午後出勤になる旨を伝える。それから母に事の次第を連絡すると、真剣に心配され、母の優しさとともに、心配され過ぎた事に落ちる。
それから迷惑とは知りつつも、電車にのって帰宅。明らかにおかしな匂いを発していたため。僕の近くに来た人は暫くすると顔をしかめて離れていく。ぼくはなるたけ涼しい顔をして電車にのる。もちろんできるだけ乗客の少ない箇所に。

そんな風に帰宅し、ズボンを賢明に洗い、着替えてまた1日をリスタートする。
僕はおそらく相当情けない事をしてしまった。しかし、漏らしてしまった事で、うんこに対する概念が変わった。自分のからだから出ているものを直に手で触った事で、何かが僕の中で弾けた。
「これで少し成長できた」と心から思おうとした。実際何かが僕の中で成長した。

本当に汚い話である。しかし僕にとっては今年色々ある僕の人生における大事件の中、明らかに異質な光を放っている大事な事件の一つであると言えよう。
もう、ニ度と漏らす事はしないと心に誓い。また成長して行きたいと思う。