丑三つ時に妻が

丑三つ時に妻が
「破水をした」と告げる。
タクシーに乗り病院へ向かう。
丑三つ時から丑四つ時までにタクシーから見える雲は
どんよりと浮かびながらも朝焼けの予感を感じさせる
紫の波となり空に浮かんでいた。
それを見ながら、僕はきっとこの風景を
忘れないだろうと思った。

予定より早かったものの妻は順調に分娩台へあがる
傍らに立つ役に立たない案山子のような自分に当惑しながらも
新しい生命を持った肉のかたまりがズルリと産み落とされたとき
少しだけ目頭が熱くなった。

生まれ落ちた命は、まだクシャクシャで
妖怪"あぶらすまし"のよう
ただ間違いなく今この胸に抱いている命が
僕の一部からできた命である事を
何となく感じた。